Sierから地方公務員へ転じた20代男の戯言

Sier勤務から地方公務員へのジョブチェンジを経て今に至る20代男が、普段考えていること・読んだ本のレビュー等を書き連ねていくブログです。

【読後レビュー5冊目】田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 渡邉格

 

田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」

田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」

 

 本文より。

僕らが目指しているのは、この、資本主義の矛盾の連鎖を断ち切ることだ。それには、この負の連鎖と反対のことをする必要がある。つまり、「商品」と「労働力」の「交換価値」を高く保つということ。 「職人」が技術と感性を磨き、「労働力」の「交換価値」を高く保つ。そして、「職人」である生産者がつくった「交換価値」の高い原材料(商品)を仕入れる。こうして、ひとつひとつの「商品」を丁寧につくり、「商品」の「交換価値」を高く保っていくことが、「小商い」が「小商い」であり続けるために必要なことなのだ。

 

A 本の要約:
 1.どんなもの?
岡山に拠点を置くパン屋さんの仕事哲学の話。自然酵母を使ったパンを作成するに至った経緯から天然酵母とはなんぞやというところ、目指す社会の方向性などを語っている。
 
 2.今まで読んだ本と比べてどこがすごい?
新しいと感じたのは実際にパン屋を経営している実地の体験と、マルクスという経済学の大家の言説からの着想がコラボレーションしているとこ。(読むと著者の父親が学者だったと記載があり、子供の頃から見てはいたとのこと。)
 
 3.本文の流れから、要点はどこ?またそのうち技術、手法のキモはどこ?
 著者はまず1社目の就職先での産地偽装、パン屋修行時代の酵母偽装から、『人間の暮らしを自然と調和させようって思想』が足りないと判断。また、パン屋修行自体の長時間労働からなぜ働かされるのかという点に疑問を持ち、その回答をマルクス経済学を用いて説明している。→単純に言うと交換価値ある『労働力』を長く使えば使うほど資本家にとって利益がある。そのために労働者は長時間労働を強いられる。また技術革新も労働者の生活費の低下を意味するため、結局まわりまわって労働者の賃金低下に繋がる。
 そこから田舎のパン屋をやろうと決意。そこのコンセプトは『食と職の豊かさや喜びを守り、高めていくこと、そのために、非効率であっても手間と人手をかけて丁寧にパンをつくり、「利潤」と訣別すること』。適切な価格を維持し、利潤(企業の内部留保)を出さずに経営できるパン屋を目指した。そのためにはまず自然に沿うこと。それが『腐る』という自然現象への着想へ繋がる。すべてのものは腐っていく。その過程で発酵させているのがパン。材料全てに自然のやり方で作ったものを採用し、原料となる、菌(天然麹菌)、小麦(有機栽培小麦)、水(勝山の天然水)を全て近くで取れるものに限定。そうしないと生物が元々持っている力を最大限生かせないことに気づいたからだ。
 上記を踏まえて、マルクス経済学に再び戻ると、個人が労働者としての搾取を行われないためには、『生産者』にならなければならないという指摘がある。これは個人経営のパン屋へ繋がる(ここでは小商いという表現もある)。そして小商いで重要なことを以下と示している。
『ひとつひとつの「商品」を丁寧につくり、「商品」の「交換価値」を高く保っていくこと』
『パンに含まれる「使用価値」と「交換価値」を、不当に大きく見せることもなく、不当に貶めることもなく、「誰が」「どんなふうに」つくり、そこにどういう意味があるかを、丁寧に丁寧に、伝えていく力』
 最後にミクロな話だが、子育てに絡めて望んでいることが書かれていた。
『子どもが起きる頃にはお父ちゃんはもうせっせと働いていて、家中にパンの香りが漂っているとか、お客さんで店が賑わうと、お父ちゃんもお母ちゃんも大変そうだけどとても喜んでいるとか、一日くたくたになるまでに働いたあとに飲む「一杯の酒」で、お父ちゃんとお母ちゃんが無上の幸せを感じているようだとか、親が懸命に働き、生きる姿を、しっかりと目に焼きつけておいてほしいと思うのだ。  こういう環境にいれば、子どもはきっと自分の力で「育つ」。僕らが「育てる」というよりも、「内」に力を蓄えて、健やかに「育って」いく』
 
 
 4.どうやって有効だと検証した?
マルクス経済学から生産者になることで、労働力の搾取から解き放たれることを示し、菌に対する体験・経験に基づき、パン作りの哲学が語られている。
 
 5.議論はある?(自分の中で浮かんだ疑問や反証)
理念について。読書時に以下のことをメモしていた。『こういう理想の話をされると若干引いてしまう自分がいる。全てを拒否する訳ではないが、そこまでの理想が語れないなぁと。違和感の正体は分からない』。多分自分が理念に対しての理解や納得ができない時には違和感として残るのだと思う。納得する理念なら多分違和感は少ない。←ただ、自分が納得しているからといって一般に納得するものではないかもしれない。人に説明出来る形の納得がしたい。更にはカルトとの切り分けは必要。
 
 6.新しいと思った3点
・人間の感覚に対する職人的な追求。
・『私が言うのもなんだけどさ、モコとヒカルが羨ましいなぁ。毎日すぐ近くで、親と大人が必死で働いている姿を目で見て肌で感じられるんだよ。うちは父親がサラリーマンだったから、どんな仕事してるのか、どんなふうに働いてるのかなんて、ぜんぜん想像もつかなかったもん』
マルクス経済学を引用し、労働者でなくなるためには生産者であれ、と言っていること。
 
B 自分の中での気付き:
 1.この本を通して自分の生活を振り返ると?
労働者でなくなるために生産者であれ、というのは分かりやすかった。何かの価値を生み出すこと、またそれができる専門性の必要性、またその価値を知ってもらい価値を価値として多くの人に認識してもらう必要がある。左のようなことが生産者として考えることなのだと思う。
 
 
C 気づいた結果として起こそうと思う行動:
 1.この内容を使える場面は?
まずはそもそもとして自分の生活を変えたいと思った。自分の力を蓄えるというか、自分の血肉になるものへの意識を高くしていきたい。運動とか食べるものとか。