【読後レビュー14冊目】年収は「住むところ」で決まる ─ 雇用とイノベーションの都市経済学 エンリコ モレッティ
年収は「住むところ」で決まる ─ 雇用とイノベーションの都市経済学
- 作者: エンリコモレッティ
- 出版社/メーカー: プレジデント社
- 発売日: 2014/04/23
- メディア: Kindle版
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本文より。
A 本の要約:
- どんなもの?
カリフォルニア大学の経済学者である筆者が、イノベーション企業の隆盛について説明するもの。イノベーションを起こすような知識集約的な企業があると、その場所周辺でそのような企業同士の公式・非公式なコラボレーションが起き、業績向上がありさらなる知識集約的な企業が集まる理由となる。その結果、人口が増大し、関連するサービス業の雇用が生まれる。これまでは製造業(車、エレクトロニクスなど)がサービス業の雇用を生むハブだったが、その地位が知識集約的企業に移り変わってきているということを示唆している。 - 今まで読んだ本と比べてどこがすごい?
アメリカにおいて、都市間で給与を比べると都市によって圧倒的な差があることを明らかにした。平均給与、昇給率など、当たり前といえば当たり前だが様々な指標を都市間で比べるとA都市の最低ベレルがB都市の最高レベルだったりする。
また、給与だけでなく住んでいる地域によって教育レベルや投票率、更には平均寿命にすら有意な差異が見られることを述べている。 - 議論はある?(自分の中で浮かんだ疑問や反証)
なぜローカル経済から〜の内容と背反する部分が一分ある。
ローカル経済から〜では、日本を舞台にGDPの7割を生み出すローカル企業(主にサービス業)にスポットを当て、それらに対する今後の見通し、必要な戦略について記述していた。その中ではグローバル企業は日本国内にトリクルダウンを起こせないという前提になっていたが、本書籍ではトリクルダウンを前提として、都市にイノベーション企業があること必要性を説いている。
私見ではあるが、これはサービス業の構造の違いによるものではないだろうか。それこそグローバル企業並みに集積されたチェーンのサービス業が多い地域であれば地元企業へお金は落ず、地元資本の企業が多ければトリクルダウンによる効果は見込める。ただ、トリクルダウンを企業サイドから見るか従業員サイドから見るかという差であるということも言えると思う。企業サイドから見ると、地元企業の売上が向上しないとその都市・地域へのトリクルダウンが起きたとは言わないが、従業員サイドからすれば、その地域にすむ労働者の雇用が生まれ、賃金が発生すれば、雇用主がどんな企業であろうとトリクルダウンが起きた、と言うだろう。 - 新しいと思った3点
・都市に必要なのは特定企業ではなく、特定企業が本社を置こうと思うための設備やサービス業の充実具合である。
・デトロイトやロチェスターなどの製造業のあった都市は、その企業単体に頼りすぎた。本当に都市反映のために必要だったのは企業ではなく、企業を中心とした「エコシステム」だった。
・一流大学があることは重要だが、それだけでは、イノベーション産業の集積地が形成・維持されるとは限らないのだ。(中略)地域経済を発展させるうえで大学が最も効果を発揮するのは、専門性の高い労働力と専門サービス業者とともに、イノベーション活動のエコシステム(生態系)を形成している場合だ。集積地が形づくられれば、大学は集積地の成長を促すために大きな役割を果たし、集積地の成功を支えるエコシステムの柱として機能する場合も多い。
B 自分の中での気付き:
- この本を通して自分の生活を振り返ると?
自分の生活もこの地域性、集積効果のメリット・デメリットが発生することを念頭に置く必要がある。朱に交われば赤くなるということわざを実証したこの書籍で、今まで何となく感じていた地域ごとの差というものを強力に意識するに至った。住む場所選びはそこまで重要で自分たちの将来に大きな影響をあたえるものであることを認識すべきと感じた。
C 気づいた結果として起こそうと思う行動:
- この内容を使える場面は?
仕事にもこの書籍の内容は大きな示唆を与える。地方政策を考える上で、企業側にとっていかに魅力ある年にするかという点を抜きには出来ない。企業に魅力ある土地で、近隣に住む人が増えると税収としても増える。当たり前ではあるが、人の集積を抜きには今の都市発展は考えにくい。また、大学の重要性についても示唆がある。卒業生が地元企業へ就職し専門性の高い労働力になること、その高い専門性が住民へ波及することが期待される。