【読後レビュー10冊目】「学力」の経済学 中室牧子
本文より。
海外のデータを用いた論文を見るたびにため息が出ました。日本に比べるとかなり充実している海外の教育データは、教育分野での実験に対して社会的な理解と寛容さがあることを感じさせます。その寛容さが結果として、海外の研究を質の高いものにし、政策への貢献を可能にしているのです。
A 本の要約:
- どんなもの?
教育経済学を専門に慶應義塾大で教鞭をとる筆者が、教育の現場を計量・分析してわかった結果を述べているもの。「子供をご褒美で釣ってもいいのか」「少人数教育は子供の教育に効果があるのか」「いい先生とはどんな先生なのか」というテーマで、計量的な分析の記述がある。 - 今まで読んだ本と比べてどこがすごい?
筆者の問は、「教育論は体験に基づきすぎている」というところから始まる。文中で引用されている例えに、「自分が病気になった時、長く生きているだけの老人に長寿の秘訣を聞く人は少ないのに、子供の成績に悩む親は子供を東大に入れた老婆の体験を買っているというのは不思議でないだろうか」と言うものがある。
教育分野に関しては個々の子供の特性や能力によって左右されるであろう「どんな教育がいいのか」という問いが、主観と経験に基づく方法論で解決されていることが筆者の議論の出発点である。 - 技術や手法のキモはどこ?
上記にも記したが、主観と経験に基づきがちな教育論ないしは教育方法について、統計的な手段を用いて、規則性を明らかにしている部分。また、「子供をご褒美で釣ってもいいのか」という子育ての分野から、「少人数教育は子供の教育に効果があるのか」、「いい先生とはどんな先生なのか」という教育政策の分野についても問いを立て分析を行おうとしている。 - 議論はある?(自分の中で浮かんだ疑問や反証)
統計的な分析でアメリカが成功していることは分かったが、こと日本においてもこのような調査に基づく事実把握が有用であるかという点は確認する必要があると感じた。文化的・民族的な違いがもたらす結果の差異は一定程度あると感じる。 - 新しいと思った3点
・子供の成績とテレビやゲームが必ずしも負の因果関係があるとは限らない。1日1時間程度なら負の因果関係が極端に大きくなることは無いとの結果が出ている。
・他の生徒からの影響について。優秀な生徒から受ける正の影響は、元々成績優秀な生徒に対してのみ起こる。成績下位の生徒には優秀な生徒からの正の影響は少ない。
・どの時期の教育が最も投資対効果が大きいのか。最も人的資本への投資効果が大きいのは、就学前における教育。勉強だけでなく、しつけによる生活習慣づけや体力面・健康面への投資が必要。「自制心」「やり抜く力」などの非認知的能力を就学前に鍛えておくことにより、将来の年収や昇進、または逮捕歴・生活保護受給歴にも関係する。
B 自分の中での気付き:
- この本を通して自分の生活を振り返ると?
教育論は自分の経験や主観から来ている、というのははっとさせられた。たしかに他人に「どういう勉強をすべきか」「どんなキャリア形成をすべきか」ということを問われて話すときに、自分の経験でしか話していない場面は往々にしてある。自分はこの方法でうまく行ったけど、他の人ならこの方法もいいよ、という言い方は中々できない。なので、これからは自分の経験上はこうした方がいい、というのとセットで、自分はこういう性格だから、とかこういう制約条件があったからという前提の部分をちゃんと述べたいなと思った。
C 気づいた結果として起こそうと思う行動:
- この内容を使える場面は?
教育政策立案に関して。これまで行われてきた少人数制学級や子ども手当は各国の実施結果として「費用対効果が低い」と認定されたものばかりだったということ。このような政策立案はすべきでないし、他の導入実績としての比較を行い、反証を述べるべきであったと考える。教育政策を立案する際には、掲げる理想を実現する具体的な数値目標の元、達成するために費用対効果の高い製作手段を取るべきである。